はじめに:退職を考えているあなたへ
「辞めた後、生活できるのだろうか。」
「貯金が底をつくのが怖い。」
「家族に迷惑をかけてしまうかもしれない。」
退職を考えているとき、こうした不安が頭の中をぐるぐると巡って、なかなか一歩を踏み出せない ―― 実はこれ、あなただけではありません。退職ステーションにご相談いただく方の多くが、まさにこの段階で足踏みをされています。
ただ、少し立ち止まって考えてみてください。この不安の正体は何でしょうか。
多くの場合、それは「退職後に何にいくらかかるのかが見えていないこと」から来ています。漠然と「お金がなくなりそう」と感じているけれど、具体的に何がいくら必要なのかが整理できていない。だからこそ不安が大きく膨らんでしまうのです。
そこで今回は、退職後に新たに発生するお金について、具体的な数字を交えながらひとつずつ整理していきます。この記事を読み終える頃には、漠然とした不安の輪郭がはっきりと見えてくるはずです。何がいくらかかるのかがわかれば、「じゃあどうすればいいか」を考えられるようになります。先が見えれば、自信を持って次の一歩を踏み出せる。まずは一緒に、退職後のお金の全体像を整理していきましょう。
退職後、なぜ急にお金の負担が増えるのか?
会社に勤めている間、あなたの給与明細には「健康保険料」「厚生年金保険料」「住民税」といった項目が並んでいます。毎月自動的に天引きされているため、普段はあまり意識しないかもしれません。
しかし、ここに大きなポイントがあります。
実は、健康保険料と厚生年金保険料は、あなたと会社がほぼ半分ずつ(労使折半)で負担しています。たとえば、あなたの給与明細に「健康保険料 15,000円」と書かれていたとしたら、会社も同じくらいの金額を負担してくれています。つまり、実際にかかっている保険料は約30,000円。あなたはその半分だけを支払っていたのです。
退職すると、この「会社が半分持ってくれる」仕組みがなくなります。健康保険については、国民健康保険に加入するか、退職前の健康保険を任意継続するか、あるいは家族の扶養に入るか、いずれかを自分で選んで手続きする必要があります。年金についても、厚生年金から国民年金の第1号被保険者へ、自分で種別変更届を提出して切り替えます。そして、住民税もこれまで給与から天引きされていたものが、自分で直接納付する形に変わります。
つまり、退職後に急に負担が増えたように感じるのは、実際に負担が増えている部分もありますが、それ以上に「今まで見えなかったコストが目に見える形になる」ことが大きいのです。
退職後に発生する3つの主な出費
退職後に加入する国民健康保険(国保)の保険料は、多くの方が「こんなに高いの?」と驚くポイントです。
国民健康保険料は、前年の所得をベースに計算されます。つまり、退職した年は「在職中の収入」で保険料が算出されるため、収入がなくなっているにもかかわらず高い保険料を支払うことになります。
たとえば、東京都新宿区の令和8年度(2026年度)の保険料率で計算すると、40歳未満・単身・年収350万円の方の国民健康保険料は年間約27万2,000円、月額にすると約2万2,700円です。年収500万円であれば年間約45万円を超え、月額約3万8,000円になります(いずれも新宿区公式サイト掲載の保険料率に基づく試算)。
なお、国民健康保険料は自治体によって計算方法や料率が異なるため、同じ年収でも住んでいる地域によって金額が変わる点にも注意が必要です。
また、「任意継続」という選択肢があることも知っておいてください。これは、退職後も最大2年間、会社の健康保険にそのまま加入し続けられる制度です。ただし、在職中は会社と折半していた保険料を全額自己負担することになるため、保険料は在職時のおよそ2倍になります。
一般的な傾向として、扶養家族がいない単身世帯で前年収入が400万円程度までの方は国民健康保険のほうが安くなることが多く、扶養家族がいる方や前年収入が高い方は任意継続のほうが安くなる傾向があります。ただし、これはあくまで傾向であり、最終的にはご自身の状況で比較する必要があります。
重要なポイント: 任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内です。この期限を過ぎると任意継続を選ぶことができなくなりますので、退職前に比較検討しておくことをおすすめします。
会社員は厚生年金に加入しており、保険料は会社と折半で給与から天引きされています。退職すると、国民年金の第1号被保険者に切り替わり、保険料は全額自己負担となります。
2026年度(令和8年度)の国民年金保険料は月額17,920円です(2025年度は月額17,510円でした)。
この金額は所得に関係なく一律です。つまり、退職して収入がゼロになっても、毎月17,920円の支払いが発生します。
ただし、経済的に支払いが困難な場合には、免除制度や納付猶予制度を利用することができます。全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4段階があり、退職による収入減を理由に申請すれば認められるケースも多いです。免除期間も年金の受給資格期間にカウントされますので、「払えないから」と放置するのではなく、必ず免除申請をすることが大切です。
住民税は、前年1月1日から12月31日までの所得をもとに計算され、翌年の6月から翌々年の5月にかけて納付する仕組みです。つまり、今年退職して収入がなくなったとしても、昨年の収入に対する住民税の支払い義務は残ります。
在職中は毎月の給与から天引き(特別徴収)されていたため気づきにくいのですが、退職後は自分で納付する形(普通徴収)に切り替わります。普通徴収の場合、年4回(6月、8月、10月、翌年1月)に分けて支払います。
ここで特に注意したいのが、退職する時期によって住民税の扱いが変わるという点です。
1月〜5月に退職する場合: 原則として、退職月から5月分までの住民税が最後の給与や退職金からまとめて一括徴収されます。たとえば3月に退職した場合、3月・4月・5月の3ヶ月分が最終給与から一括で引かれるため、手取りが大きく減る可能性があります。
6月〜12月に退職する場合: 退職月までの住民税は最終給与から天引きされ、翌月以降の分は普通徴収に切り替わります。後日、市区町村から届く納付書で自分で支払います。希望すれば退職時に残額を一括徴収してもらうことも可能です。
住民税の年額は年収や控除によって異なりますが、目安として年収350万円・独身の方で年間約14万6,000円(月あたり約1万2,200円)、年収500万円・配偶者控除ありの方で年間約21万円(月あたり約1万7,500円)程度です(住民税率10%、社会保険料控除を概算で算入した試算)。
あなたの場合はいくら? 年収別・退職後の月額負担シミュレーション
ここまでの情報を踏まえて、「自分だったらどのくらいかかるのか」をイメージしやすいように、3つのパターンでシミュレーションしてみましょう。ご自身に近い年収・家族構成のケースを見てみてください。
| 項目 | 月額の目安 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 約22,700円 |
| 国民年金保険料 | 17,920円 |
| 住民税(普通徴収・月あたり換算) | 約12,200円 |
| 合計 | 約52,800円 |
退職して収入がゼロの状態でも、毎月約5万3,000円の支出が発生します。
※ 国民健康保険料は新宿区令和8年度の保険料率に基づく試算(年間約272,000円)。住民税は年間約146,000円の試算。
※ 数値は2026年5月時点の金額です。
| 項目 | 月額の目安 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 約46,600円 |
| 国民年金保険料(本人分) | 17,920円 |
| 住民税(普通徴収・月あたり換算) | 約17,500円 |
| 合計 | 約82,000円 |
※ 国民健康保険料は新宿区令和8年度の保険料率に基づく試算(本人40代+配偶者30代の2人加入、年間約559,000円)。住民税は年間約210,000円の試算(配偶者控除あり、16歳未満の子の扶養控除はなし)。
※ 配偶者が第3号被保険者だった場合、配偶者も国民年金の第1号被保険者に切り替わるため、配偶者分の国民年金保険料17,920円も加算されます。その場合、合計は約10万円になります。
※ 数値は2026年5月時点の金額です。
| 項目 | 月額の目安 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 約16,500円 |
| 国民年金保険料 | 17,920円 |
| 住民税(普通徴収・月あたり換算) | 約7,600円 |
| 合計 | 約42,000円 |
年収250万円の方でも、毎月約4万2,000円の固定的な支出が発生することがわかります。
※ 国民健康保険料は新宿区令和8年度の保険料率に基づく試算(年間約198,000円)。住民税は年間約91,500円の試算。
退職したら何がいつ届く? 退職前後のやることスケジュール
数字だけでなく、「退職してからいつ何が届いて、何をしなければいけないのか」を時間の流れに沿って把握しておくと安心です。ここでは、9月末に退職したケースを例に、退職前から1年後までの流れを追ってみましょう。
- 国民健康保険と任意継続の保険料を比較しておく(任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内)
- 退職後に届く住民税の普通徴収の納付書に備えて資金を確保しておく
- 退職月の給与から住民税が一括徴収されるかどうかを経理に確認する
- 会社の健康保険証を返却する
- 国民健康保険への加入手続き(退職日から14日以内に市区町村の窓口で手続き)、または任意継続の申請(退職日の翌日から20日以内)
- 国民年金の第1号被保険者への種別変更届を市区町村の窓口で提出
- 住民税の普通徴収への切り替え(会社側が「給与所得者異動届出書」を提出するため、基本的には自動で切り替わる)
- 国民健康保険料の納付通知書が届く(年度途中の加入のため、残りの期間分が通知される)
- 国民年金の納付書が届く(届かない場合は年金事務所に確認)
- 住民税の納付書が届く(普通徴収に切り替わった分)
- 住民税は引き続き普通徴収で納付(10月末、1月末の納期限に注意)
- 確定申告の準備(退職した年は年末調整を受けていない場合、確定申告が必要。源泉徴収票を退職した会社から受け取っておく)
- 翌年度の住民税は今年の所得(=退職するまでの収入)で計算されるため、退職時期によっては翌年度も一定の住民税がかかる
- 新年度の国民健康保険料の通知が届く(退職後に収入が大幅に減っていれば、保険料は大きく下がる可能性がある)
- 住民税も退職翌年の収入をベースに再計算されるため、収入が少なければ軽減される
まとめ:全体像が見えれば、不安は小さくなる
ここまで読んでいただき、退職後にかかるお金の全体像が少しクリアになったのではないでしょうか。
改めて整理すると、退職後に新たに発生する主な出費は「国民健康保険料」「国民年金保険料」「住民税」の3つです。年収や家族構成、退職時期によって金額は変わりますが、おおよそ月額4万〜10万円程度の固定支出が発生する可能性があります。
「思っていたより出ていくお金が多い」―― こう感じた方も少なくないと思います。でも、それは決して悲観する必要はありません。全体像が見えたことで、漠然とした不安が「具体的な数字」に変わったはずです。数字が見えれば、対策が立てられます。
ただし、今回のシミュレーションはあくまで一般的な目安です。実際には、お住まいの自治体の保険料率、退職時期、家族構成、前年の正確な所得額など、個人の状況によって金額は大きく変わります。
退職ステーションでは、あなたの状況に合わせた「退職後の設計書」を無料でお作りしています。
退職後の設計書でわかること:
- あなたが受け取れる給付金の見込み額
- 退職後の月別収支シミュレーション(いつ、いくら入って、いくら出ていくか)
- 給付金の受給スケジュールと手続きの流れ
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